なぜ、アクティベーションが不可欠か?

スポーツ業界では、スポンサーシップは単にロゴを掲示したり、選手に商品を使ってもらう以上の、高度なコミュニケーション戦略が不可欠です。スポンサーシップを成功させる鍵は、権利料の支払いだけに留まらず、追加投資や活動、すなわち「アクティベーション」を行うことにあります。

アクティベーションとは、マーケティングコミュニケーション、ホスピタリティ、顧客体験など、様々な活動を通じてスポンサーシップの価値を高め、効果を向上させることを指します。ブランドはスポンサーシップを通じて多様な目的を達成しようとしており、そのために様々なマーケティングコミュニケーションを実施しています。

適切に実施されれば、アクティベーションは、現代の混雑したプロモーション市場において、ブランドがターゲット市場に到達することを可能にします。競合他社との差別化、投資収益率(ROI)の最大化、そしてブランドイメージ向上や販売促進といった高度な目標達成にも貢献するのです。

アクティベーション比率(追加投資額 ÷ 権利料)は、スポンサーシップの効果を測る指標の一つです。主要スポンサーでは、この比率が7:1、場合によっては10:1に達することもあります。2019年にIEG社が発表したデータによると、米国のスポンサーシップ市場でのアクティベーション比率は2.1:1という結果が出ています。

それでは、具体的にどのようなアクティベーション手法があるのか、具体的に説明していきましょう。

スポンサーシップを活用した広告展開

このアクティベーション手法は、スポンサーがスポーツプロパティのイメージをテーマにした広告キャンペーンを活用することを指します。広告とは、製品やサービスに関するコミュニケーションの一形態です。通常、広告は非対話的で個別対応ではなく、特定の個人に向けたものではありません。大衆に向けたコミュニケーションとなります。

スポンサーシップ関連広告は、プロパティとブランドのパートナーシップを強調することで、スポンサーの認知を向上させます。広告には、プロパティの名前、ロゴ、フォントの種類、シンボル、色、形状などと関連付けたものを含めることができます。

特に、スポーツプロパティに参加するアスリートをスポンサーシップ関連広告に活用することは、効果的なアプローチです。
スポンサーシップ関連広告は、以下のようなさまざまな手段を通じて行われます。

・屋外広告(屋外看板、ポスター、チラシ)
・印刷物(新聞や雑誌の記事や広告)
・WEB(SNS、オウンドメディア、YouTube)
・テレビ(中継やコマーシャル)
・プロパティを利用したノベルティ(例:ノート、ファイル、キーホルダー)
・プロパティ関連のマーケティングテーマ

具体例として、スポンサーシップの期間中に参加アスリートを特集したTVCMの放映や新聞広告の折り込み広告があげられます。

メジャーリーグ、ロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷選手を起用した広告や、箱根駅伝の中継時に流れるサッポロビールのCMなど、伝統的な広告を通じたアクティベーションも実施されます。

スポンサーシップを活用した広報活動

この種のアクティベーションは、一般市民の利益のために実施され、第三者(メディア)による善行の承認として報道されることを目的としています。これにより、スポンサーしているスポーツプロパティに関心を持つ人々に注目されることが期待されます。

広報活動とは、企業が意図的にスケジュールした公共イベントを通じて、コミュニティへの支援を示し、メディア報道を引き付けることを指します。この報道は、広告としてではなくニュースとして提示され、一般からそのように認識されることが重要です。

日本のプロ野球チーム北海道日本ハムファイターズは、「ダイヤモンド・ブラッシュ・プロジェクト」というプロジェクトを通して、北海道の少年野球場を修繕して、安心・安全な環境に整える取り組みをしています。本取り組みでは、地元企業の設備寄贈が行われたり、自治体と連携してプロジェクトを推進しています。

スポンサーシップを活用した販売促進

スポンサーシップに関連した販売促進は、多くの場合、短期的なインセンティブとして活用されます。これは、スポンサーが製品やサービスに対する需要を即座に喚起することを目的とするものです。これらの販売促進活動は、特定の行動を促すことを主眼としており、特典やインセンティブを提供することで短期的な売上増加を目指します。

例えば、スポンサーは会場にショップを設置したり、会場内でのプロモーションを実施したり、店舗でのプロモーションを行うことができます。会場に店舗を設置することは、スポンサーシップ関連の販売促進活動の中で最も一般的な手法の一つです。

会場内プロモーションの典型的な例としては、スポンサーのプロパティに関連した商品を来場者に配布することが挙げられます。具体的には、Tシャツ、バッグ、サイン入り商品、クーポン、タオルなどです。

店舗での販売促進活動は、スポンサーが潜在顧客をスポンサーの小売店やオンラインストアに誘導するのに役立ちます。スポンサーシップに関連する店舗内プロモーション戦術には、割引、クーポン、懸賞、賞品、特典などが含まれます。具体例としては、以下のようなものがあります。

・スポーツプロパティのチケットを購入した顧客が抽選に参加し、スポンサーから商品が当たる。
・プロパティをテーマにしたコンテストに参加し、勝利した顧客に無料商品を提供(例:航空会社が提供するフライト無料チケット)。
・スポンサーの製品やサービスを使用することでポイントを貯める特典を提供。
・商品を注文した顧客にスタジアムで観戦できるチケットを提供。
・スポンサーの商品やサービスを購入した顧客にVIP体験を獲得するチャンスを提供。

さらに、スポンサーシップ対象のイベントの時期に合わせて、イベントテーマの商品やサービスを開発・販売することも一例です。

スポンサーシップを活用した体験型マーケティング

この種のアクティベーションは、イベント会場での特別な催しや、いわゆる「現場」でのマーケティング活動を指します。スポンサーシップに関連した体験型マーケティングは、スポーツイベントの参加者に対し、記憶に残るリアルな体験を提供することを目的としています。

例えば、来場者参加型のゲームや、スポンサー製品の試飲・試食コーナーなどを通じて、参加者はスポンサーが提供する商品やサービスに触れることができます。これにより、観客、参加者、サポーターは製品やサービスと直接的な接点を持ち、より深い理解や親近感を抱くことが期待されます。

スポンサーシップに関連した体験型マーケティングでは、参加者がスポンサー企業の担当者と直接交流する機会を設けることで、製品やサービスへの理解を深め、より長期的な関係を築くことができます。このような体験型活動は、スポンサー企業とスポーツファンとの間に強い絆を育み、参加者の消費行動に大きな影響を与える可能性があります。

したがって、体験型活動は、参加者にとって有益で楽しく、学びがあり、そして魅力的なものであることが重要です。この種のアクティベーションは、特にブランドイメージや好感度の向上、売上増加といった目標達成に効果的ですが、新製品やサービスの発表にも適しています。

スポンサーシップを活用したホスピタリティ・マーケティング

これらのアクティベーションは、スポンサーシップ契約に基づいて提供される様々な特典を活用し、スポンサー企業の従業員、パートナー、サプライヤー、投資家、役員、株主、顧客、そして潜在顧客に対して、スポーツイベントを通じた特別な時間を提供することを目的としています。

これには、企業間取引(BtoB)と消費者向け取引(BtoC)の両方のマーケティング活動が含まれます。例えば、重要な取引先に対して特別なVIP体験を提供する場合はBtoBマーケティングとなり、将来有望な顧客に対して特別な体験を提供する場合はBtoCマーケティングとなります。

スポンサーシップに関連するホスピタリティ・マーケティングでは、選手との交流、イベントへの優先的な入場、VIPエリアへのアクセスなど、参加者の体験価値を高めるための様々な企画が実施されることがあります。

例えば、スポンサー企業がイベント参加者全員に無料飲食を提供し、その情報を様々な方法で告知するといったケースが考えられます。具体的には、飲食券に「当社は、ご来場の皆様を歓迎し、飲食代金を負担いたします。イベントをお楽しみいただき、ぜひ当社HPもご覧ください」といったメッセージを印刷するなどの方法が考えられます。

まとめ

今回の記事では、スポンサーシップを成功させるための重要な要素である「アクティベーション」について解説しました。アクティベーションとは、スポンサーシップの効果を最大化するための、権利料を超えた追加投資や活動を指します。様々な種類のアクティベーション手法を効果的に活用することで、スポンサー企業はブランド認知度の向上、売上増加、顧客との長期的な関係構築といった目標を達成することができます。

スポーツスポンサーシップは、適切なアクティベーション戦略と組み合わせることで、企業にとって非常に効果的なマーケティングツールとなり得ます。ぜひ、この記事で紹介した内容を参考に、アクティベーション戦略を検討してみてください。

CEO profile

本記事の監修者紹介
池田 聡史
スポーツビジョナリー|代表取締役社長

三井住友銀⾏で法⼈営業を経験した後、外資系および国内の動画・広告領域におけるスタートアップで営業組織の立ち上げやマネジメント業務を学ぶ。その後Jリーグクラブでスポンサーシップセールスを経験。現在はスポーツに特化したマーケティングエージェンシーであるSportVisionary(スポーツビジョナリー)を運営し、企業のスポーツ活用を支援している。AFC(アジアサッカー連盟)が提供するACFAM(フットボール経営管理コース)を受講。アジア地域のスポーツ業界の持続的な成長に貢献するべく起業に至る。