
スポーツスポンサーシップは、スポーツプロパティ(チーム、選手、イベントなど)を通じて、企業が異なる市場にリーチするためのマーケティング手法です。スポンサーは、スポーツプロパティに資金や商品・サービスなどを提供し、その見返りとして、広告掲載や販売促進などの権利を得ます。
なぜスポンサーシップ提案書が必要なのか?
ほとんどのスポンサーシップにおいて、スポンサーとプロパティの両者は投資の正当性を説明する必要があります。
スポンサーがスポンサーシップへの支出を決定するためには、投資を正当化するための説得力ある理由、つまり、スポンサーシップによって得られる効果やメリットを明確に示す必要があります。
その際に活用するのが提案書です。
この提案書は、企業が検討する競合する提案書の中から際立つものでなければいけません。さて、どのように提案書を際立たせることができるのでしょうか?
それは簡単ではありませんが、次のセクションでは、スポーツプロパティのプロモーションの可能性を示す提案書を作成するための計画手順と実務を詳しく説明します。
- 1. なぜスポンサーシップ提案書が必要なのか?
- 2. 説得力のあるスポンサーシップ提案書を作成する方法
- 3. スポンサーシップ提案書を作成するためのインプット
- 3.1. サービス提供できる資産の整理
- 3.2. ターゲットオーディエンスの特定
- 3.3. プロスペクティング(潜在スポンサーの探索)
- 3.4. 絞り込んだ潜在スポンサーの調査
- 4. スポンサーシップ提案書の作成
- 4.1. 表紙
- 4.2. プロパティのハイライト
- 4.3. プロパティの説明
- 4.4. プロパティの市場セグメント
- 4.5. プロパティのオーディエンスリーチ
- 4.6. アクティベーションの提案
- 4.7. メリットの可視化
- 4.8. スポンサーシップ料金
- 4.9. 行動を促す一言
- 5. スポンサーシップ提案後に実施すべきこと
- 6. まとめ
説得力のあるスポンサーシップ提案書を作成する方法
スポンサーシップ提案書を作成するには、2つの異なるステップを完了させる必要があります。
・提案書を作成するためのインプット
・提案書を作成する
まずは、提案書のインプットについて整理していきましょう。
スポンサーシップ提案書を作成するためのインプット
提案書に必要な情報を収集することは、スポンサー探しを成功させるために極めて重要です。このプロセスにより、リソース(時間、人材、資金、知識、ツール、メディア資産など)をより効率的かつ効果的に活用することができます。
スポンサーに関連する情報を収集する際、スポーツプロパティは以下の4つの計画ステップを実施する必要があります
1.サービス提供できる資産の整理
2.ターゲット市場の特定
3.スポンサー候補の発掘
4.最終候補スポンサーの調査
以下、それぞれのステップについて説明します。
サービス提供できる資産の整理
スポンサーシップ提案書を作成する最初のステップは、スポンサーシップ権利料と引き換えに提供できる内容をリストにまとめることです。
これらの項目は「資産」と呼ばれることがあり、資産には、イベント、アスリート、ブランド、ロゴ、ファン層、参加者データベースなどが含まれます。
資産リストの作成は、事前、開催中、事後のマーケティングコミュニケーション活動を特定することから始まります。
これには、以下のようなコミュニケーションチャネルが含まれます
・オンライン(例:ソーシャルメディア、ウェブプラットフォーム)
・テレビ
・ラジオ
・印刷媒体(例:新聞、雑誌)
・屋外広告(例:バナー、ポスター、フライヤー、ビルボード)
特に、テレビやX、YouTubeといった大規模チャネルでのライブ配信に関して、イベント前後および開催中のメディアリーチを詳述することが重要です。また、過去の実績として、メディア報道(テレビ視聴率、ソーシャルメディアの閲覧数、YouTubeの再生回数など)、参加者/観客レベル、視聴者層の内訳、スポンサーへの提供価値などを簡単にまとめたプロフィールも含めるべきです。
スポンサー提案書に記載される資産リストは、通常、以下のようなカテゴリに基づいてリスト化されます
現地でのサービス提供:現地での体験型マーケティング、ホスティング、サンプリングの機会
サイネージ:現地イベント、車両サイン、ユニフォームのロゴ
デジタル:ウェブサイトのバナー、ソーシャルメディアリンク
ホスピタリティ:イベントチケット、VIPチケット、アスリートや有名人との対面機会
データベースマーケティング:ファンや観客、参加者の連絡先情報へのアクセス
メディア機会:イベント前後の記者会見
これらすべての機会を提案書に含めたとしても、すべてを提供する必要はありません。
しかし、資産リストを提案書に含めることで、スポンサー候補がそのプロパティのプロモーションの可能性を認識する助けになります。
さらに、こうしたリストを用意することで、価格設定やスポンサーシップの階層を明確にする手助けにもなります。したがって、スポンサーに提供できるすべての機会を具体的かつ詳細にリスト化することが不可欠です。
ターゲットオーディエンスの特定
ターゲット市場セグメントを明確にし、オーディエンスの魅力を潜在スポンサーに伝えることは、興味を持つ可能性のあるスポンサーを特定し、引きつけ、維持するための鍵となります。
この章の冒頭で述べたように、スポンサーシップにおけるターゲット市場のセグメンテーションは、以下の観点から考えられます。
1.オーディエンス(ファン/顧客)の特徴(人口統計や特定の集団属性)
誰がスポーツプロパティに関心を持っているのか。
2.なぜスポーツプロパティに関心を持つのか(価値観、ライフスタイル、興味関心、行動特性)
スポーツプロパティに対する関心や価値観。
3.スポーツプロパティとの地理的関係(地理的要因)
どこに住んでいるのか、スポーツプロパティとの物理的な距離感。
4. スポーツプロパティへの興味の理由
ファンや参加者が得られる「メリット、満足感」
提案書における推奨事項
提案書には、以下のようなプロパティのオーディエンスに関する内訳を共有することが推奨されます。
・デモグラフィックス:性別、年齢、人種、婚姻状況など。
・社会経済的特徴:収入、教育水準、職業など。
・地理的特徴:ローカル、地域、全国、グローバルな市場セグメント。
可能な限り詳細な情報を提供することで、スポンサー候補がスポンサーシップを通じてリーチ可能なオーディエンスを明確に理解できるようにします。
目的 オーディエンスに関するデータが多ければ多いほど、提案書の説得力が増します。
詳細な情報は、提案書の販売力を高め、スポンサー候補を納得させる材料となります。
プロスペクティング(潜在スポンサーの探索)
資産リストの作成とターゲット市場の分析が完了したら、次のステップは潜在スポンサーを探すことです。この文脈において、プロスペクティングとは、あなたの資産やターゲット市場に興味を持つ可能性のある潜在スポンサー群を特定することを指します。
具体的には、プロパティに適した潜在スポンサー群を特定する作業を指します。 重要なポイントとして、このステップでは効率を重視し、オーディエンスや資産に価値を見出さないブランドを追求してリソースを無駄にしないことが求められます。
スポンサーシップは、リソースが交換される2者間の合意であるため、スポンサーとプロパティの双方にとって互いに利益があると認識されなければ、まず契約が合意されることはありません。
したがって、プロパティとして、ターゲットオーディエンスや資産に関心を持つ可能性のある潜在スポンサーを特定する必要があります。その際、作成したインベントリとターゲットオーディエンスが、潜在スポンサーを特定する際の指針となるべきです。
リーチの定義
潜在スポンサーのリストを特定するための推奨方法は、まずスポーツプロパティのリーチを定義することから始めます。リーチが分かれば、潜在スポンサーのリストを絞り込むことができます。例えば、ローカルレベルのリーチを持つスポーツプロパティは、全国的または国際的な露出を求めるスポンサーには通常興味を持たれません。言い換えると、町のコーヒーショップがP & Gのような多国籍企業よりも適したターゲットになります。
潜在スポンサーを特定するために考慮したいこと
以下の3つの点を考慮に入れて、スポーツプロパティが潜在スポンサーを選定すると良いでしょう。
1.スポーツプロパティのターゲット市場と類似するスポンサーに限定する。
2.自分のプロパティに似た他のプロパティのスポンサーを参考にする。
3.(1)と(2)で特定した潜在スポンサーの業界内の直接競合企業に範囲を広げる。
このような流れで潜在スポンサーを選定すると良いでしょう。
絞り込んだ潜在スポンサーの調査
このプロセスの次のステップは、前のステップで絞り込んだ潜在スポンサーのリストについて調査を行うことです。この調査では、以下のポイントを含む、いくつかの要因を検討することが推奨されます。
1.潜在スポンサーとの適合性を評価する
・潜在スポンサーのターゲット市場と、あなたのファンや参加者のベースが重なることを示す必要があります。
・セグメンテーション要素(家族構成/役割、性別、生活状況など)を使用してターゲットオーディエンスを特定します。
・例えば、あなたがゴルフ大会の主催者である場合、中~高所得層、年齢層が高いグループなど、ターゲット市場が一致するスポンサーを探します。
2.潜在スポンサーがあなたのプロパティに関心を持っているかどうかを把握する情報を収集する
・情報収集はオンライン(例:業界レポート、メディア報道)から始めます。
・また、潜在スポンサーのデジタルコミュニケーションプラットフォーム(例:ウェブサイト、ソーシャルメディア)からデータを収集することも可能です。
・もちろん潜在スポンサーにコネクションがある場合は、より詳しい内部情報を伺うことをお勧めします。
潜在スポンサーの財務能力の調査
潜在スポンサーが提案書に記載されたリソースを提供できる能力があるかどうかを評価することは、難しい作業かもしれませんが、スポンサーシップの契約において非常に重要な要素です。
いくつかの公開情報(年次報告書、プレスリリース)や業界出版物(例:国の経済モニター)が必要な情報を提供してくれる可能性があります。
非公開企業においても、例えば類似の上場企業を参考にして、ビジネスモデルの把握をしたり、社員数から事業規模を割り出したりすることもできます。
ここでのポイントは、必要なものを提供できない可能性が高いスポンサーを除外することです。この時点で、リストを絞り込むことができ、提案を検討する可能性のあるスポンサーが明確になります。
リストの優先順位付け
リストを、提案を受け入れる可能性の高い順に分類します。リストが長い場合は、銀行業、小売業などの業種ごとに潜在スポンサーをグループ分けし、優先順位を付けることを検討できます。
優先リストにおける潜在スポンサーのニーズの特定
これは提案プロセスにおける重要なステップです。以前のステップでの調査、業界ネットワーク、政府機関のデータ(例:国勢調査データ、セクターレポート)、およびオンラインでの二次検索を基に、各潜在スポンサーのニーズ評価を行います。
以下は特定できる可能性のあるニーズの例です:
・社名を新しくして、新社名でのブランド認知を獲得したい
・新製品を市場に導入する予定がある
・成績不振のサービスに対する認知度向上の必要性
・地域社会におけるポジティブなイメージ構築
・グローバル展開を促進すること
優先リストを元に潜在スポンサーのニーズを明確化(想定も含む)して、リストに含まれる各潜在スポンサーに対し、あなたのプロパティが提供できるユニークなプロモーション機会を特定することが重要です。これらの機会は、それぞれのスポンサーにとって魅力的で適切なものである必要があります。
適切な連絡先の特定
そして、成否を分ける重要なトピックとして、正しい連絡先にアプローチすること。つまり潜在スポンサーにおけるスポンサーシップの意思決定者を特定します。通常、この連絡先が提案の成否を左右する重要な人物となります。
スポンサーシップ提案書の作成
「スポンサー提案書を作成するためのインプット」ステージが完了したら、次のステップは、リストに残ったスポンサーに向けて実際に提案書を作成することです。これはプロパティが提供するメリットを潜在スポンサーに対して明確かつ論理的で意味のある方法で伝える文書を作成することが目的です。提案書を作成する際には、インプット収集ステージで得た調査データを慎重に扱う必要があります。
プロパティの規模や影響力を示すことは重要ですが、提案書の本質はプロパティの規模ではなく、潜在スポンサーに提供できるメリットについてです。スポンサーに対してプロパティの適合性や独自性を示すことが重要です。そのためには、潜在スポンサーに特化した意味のある魅力的なストーリーを語る必要があります(つまり、各提案書を受け取る相手に合わせてカスタマイズする必要があります)。
多くのモデルやフォーマットが存在しますが、提案書には以下のセクション/コンテンツを含めることをお勧めします。
表紙
表紙には、イベントの説明的な写真やプロパティに関する信頼できる情報源(例:参加者や過去のスポンサーの証言)の引用を掲載します。
プロパティのハイライト
このセクションは短く(できれば1ページまたは1スライド)まとめ、プロパティの概要(規模、リーチ、日付、主要な資産、過去の実績、イベントの頻度など)を提供します。このセクションの目標は、読者にさらに読み進めてもらうことです。そのため、消費者にとってのプロパティの価値を強調し、その価値を潜在スポンサーに提供できるメリットとして伝えます。
プロパティの説明
このセクションでは、プロパティの基本情報を簡潔に説明します。例えば、プロパティがスポーツイベントの場合、イベントの性質、場所や会場、開催日、参加者が含まれる場合はその詳細を記載します。
プロパティの市場セグメント
このセクションでは、「どのような人々にリーチできるのか?」という質問に答える内容を提供します。ターゲットオーディエンスのデモグラフィック(性別、年齢、人種など)、心理特性、地理的なデータを示し、スポンサーと消費者との適合性を強調します。
プロパティのオーディエンスリーチ
このセクションでは、「スポンサーシップの影響範囲はどのくらいか?」という質問に答えます。リーチするオーディエンスや使用するメディアについて説明し、マーケティングコミュニケーションの前後および実施中の取り組みを記載します。
アクティベーションの提案
このセクションでは、「このスポンサーシップをどのように最大限に活用できるか?」という質問に答えます。スポンサーの目的に合致したクリエイティブなアイデアを提案します。
これらの提案は、潜在スポンサーが求める目標(認知度向上、ブランディング、イメージ転送、ホスピタリティ強化、販売促進など)を達成するのに役立つ内容であるべきです。このセクションでは、ターゲット市場をスポンサー独自のプロモーションの機会にどのように結びつけるかを明確に示します。
メリットの可視化
このセクションでは、スポンサーシップを通じて利用可能なメリットをリストアップします。例として、会場でのバナー、動画コンテンツ、チケット、ソーシャルメディア資産、テレビCMなどがあります。
スポンサーシップ料金
このセクションでは、確定した金額を提示するのではなく、料金はカスタマイズ可能である旨を伝えることをお勧めします。スポンサーシップの金額は、カテゴリー、期間(単年、複数年)、排他性、などに依存します。そのため、具体的な金額を提示する前にスポンサーの興味を引きつけることが重要です。
行動を促す一言
提案書の目的は、フォローアップの会話やミーティングの機会を得ることです。このセクションでは、提案書がカスタマイズ可能であることを伝えます。連絡先情報を共有し、スポンサーに対して提案書について意見を求めることで、柔軟に対応できることを示します。
スポンサーシップ提案後に実施すべきこと
スポーツプロパティ側として、提案についてさらに議論するために会議に招待された場合、プレゼンテーションの準備が必要になります。 これらのプレゼンテーションやピッチは通常、プレゼンテーションが行われた後に質疑応答のセッションが続くように進行します。質問には注意を払い、その機会を活用してスポンサーのニーズや懸念を理解してください。
次のステップとして、提案の承諾または拒否が決定されていない場合は、提案を修正することになる可能性があります。 潜在的なスポンサーの決定結果を受け取った場合、結果に関わらずプロフェッショナルであり続けることをおすすめします。
否定的な回答があった場合でも、提案を依頼されたことに感謝を伝え、将来の可能性のために前向きな関係を築く機会としてください。肯定的なニュースの場合は、合意した内容を契約書に落とし込むステップになります。社内外の関係者に情報を共有し、実務がスムーズに進むよう調整する必要があります。
重要な点としては、顧客の期待値をコントロールすることです。あなたの提案が顧客に受け入れられたら、その内容を実施することは最低限のレベルに過ぎません。追加要素として、顧客にとって価値のある提案やメリットを提供できる余地がないか再度検討して、この契約が長期的に維持できるようなパートナーシップの成長ストーリーを作っていきましょう。
まとめ
本稿では、スポーツスポンサーシップ提案書の作成方法について、そのプロセスと重要なポイントを詳細に解説しました。
効果的な提案書を作成するためには、スポンサーシップの基本を理解し、提案書の役割を認識することが重要です。 提案書の作成は、インプットの収集と提案書の作成の2つの段階に分けられます。インプット収集では、提供できる資産の整理、ターゲット市場の特定、潜在スポンサーの探索と調査を徹底的に行い、提案書の基礎となる情報を集めます。
提案書作成段階では、収集した情報を基に、9個のセクション(表紙、プロパティのハイライト、説明、市場セグメント、リーチ、アクティベーション提案、メリット、料金、行動喚起)を盛り込み、潜在スポンサーにとって魅力的で分かりやすい提案書を作成します。
提案後も、プレゼンテーションや交渉、契約締結、関係構築など、様々なプロセスを経る必要があります。顧客の期待値をコントロールし、長期的なパートナーシップを築く視点も重要です。
本稿で紹介した内容は、あくまで提案書作成の基本的なガイドラインです。実際に提案書を作成する際は、様々な経験を踏まえ、改善を重ねていくことが重要です。 ぜひ、本稿を参考に、御社ならではの魅力的な提案書を作成し、スポンサーシップを成功させてください。
一歩ずつ着実にステップアップしていくことで、必ずや素晴らしい成果が得られると信じています。 経験は力なり。 迷ったら、まずは行動してみましょう。
本記事の監修者紹介
池田 聡史
スポーツビジョナリー|代表取締役社長
三井住友銀⾏で法⼈営業を経験した後、外資系および国内の動画・広告領域におけるスタートアップで営業組織の立ち上げやマネジメント業務を学ぶ。その後Jリーグクラブでスポンサーシップセールスを経験。現在はスポーツに特化したマーケティングエージェンシーであるSportVisionary(スポーツビジョナリー)を運営し、企業のスポーツ活用を支援している。AFC(アジアサッカー連盟)が提供するACFAM(フットボール経営管理コース)を受講。アジア地域のスポーツ業界の持続的な成長に貢献するべく、起業に至る。
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